アパレルの世界がみせてくれた、自分の居場所

よりみち仕事記録

美容師を辞めて、いつものようにパチンコ帰りに、とあるお店の前で”スタッフ WANTED”の紙が目に入った。最初は正直、働く気なんてまったくなかった。ただ、お店の内装やディスプレイされていた服がすごくかわいくて♡そのまま、彼とふらっとお店に入ってみた。

中にいた店員さんは、接客も丁寧で、話し方もやわらかくて、なによりすごくかわいかったです。「仕事してる姿が楽しそう!こんなふうになりたいなぁ」ってぽわんと憧れたのを覚えています。その日は、店員さんとの相談で決めたアウターを一着だけ買って、満足して帰りました。

それから少しして。彼に「そろそろ仕事したほうがいいんじゃない?」と言われて、次の仕事を考えるようになりました。美容師を違うお店でやってみるという選択肢もあったし、ブライダルやエステ、ネイルなど、美容師免許を活かせる道もたくさんあった。でもなぜか、自分にはそのどれもしっくりこなかったんです。

自分に自信がなくなっていたのかもしれない。また一から練習の日々に戻るのが、怖かったのかもしれません。正直、自分でもよくわかりません。きっと理由は、いくつもあったんだと思います。

そんなことを考えていると、ふと思い出したんです。あのときのあのお店。スタッフ募集してたな。まだ、間に合うかな。ちょっと勇気を出して、ダメもとでお店に電話をかけました。これが、アパレルで働き始めるきっかけです。

面接を受けて、無事に採用してもらえた私は、いよいよアパレルの世界で働くことに。その会社にはちょっと変わった文化があって、入社してすぐに”苗字ベースのあだ名”をみんなで考えるというルールがありました。私は、「佐藤」だったので「さとやん」というあだ名に決定。今まで誰にも呼ばれたことがないあだ名だったからなんだか新鮮で、嬉しかったです。職場の人たちは、先輩にもあだ名+”さん”で呼び合っていて、全体的にフレンドリーな雰囲気でした。ステキな会社だなって、安心したのを覚えています。

でも、そんな和やかな空気とは裏腹に、アパレルの仕事は私にとって決して楽なものではなかった。いちばん苦手だったのは、「自分からお客さまに声をかけること」でした。美容師のときとはまた違った”距離感”に、最初は戸惑いを隠せませんでした。店長からは、「お客さまが商品を3秒持っていたら、声をかけにいこう!」とアドバイスをもらったのですが、いざとなると、会話も盛り上がらず何を話していいのか全然わかりませんでした。気づけば「かわいいですよね~」を連呼してばかり。話すことにつまって、笑ってごまかして、また落ち込む…そんな日々でした。

店長に注意されることは、正直たくさんありました。でもその店長は、叱ったことをいつまでも引きずらない人でした。「全然、話しかけられないしダメな私だ。」と思っていても、いつも何事もなかったように、明るく接してくれていました。その姿勢に、当時の私は何度も救われていました。仕事終わりには、店長が私のためにコーディネートを組んでくれたり、「この服、さとやんに似合いそう!」って、楽しそうに話しかけてくれたり。注意される日もあったけど、それ以上に「楽しい!」がちゃんと芽生えていました。

そんな中で、初めて「やりがい」を感じたのは―――あるお客さまが、私がコーディネートした服を見て言ってくれたひと言でした。「おねえさんのコーディネート、全部かわいいです♡」たったひと言だったけど、その言葉が胸に沁みました。誰かに”自分のセンス”を認めてもらえたことが、こんなにも嬉しいなんて。それから少しずつ、お客さまと会話を重ねて、好みを共有して、一緒に選んでいく時間が楽しくなっていました。

「かわいい」を届けるがわになること。それが、私にとって新しい”接客のよろこび”でした。

気づけば、アパレルの仕事を始めて2年くらい経ち、最初は右も左もわからなかった私が、後輩に教えることも増えてきて、自分なりに”居場所”をつくれている実感もあった。忙しいけど、楽しかった。お客さまと話して、かわいいを一緒に見つけて、、毎日あっという間でした。

ある日彼が「就職が県外に決まった」と伝えてきました。それは、突然のことではなかったけれど、その瞬間から、私の中に”これからどうしよう”というモヤモヤが少し生まれました。となりの県だし大丈夫。と思っていましたが、店長から「正社員になってみる?」という嬉しい誘いも。このままアパレルを続けると、いずれは全国転勤もあり得る。好きな仕事だけど、ずっと続けていく未来が、急にぼんやりしてみえなくなりました。

「彼を追うのか、それとも、この仕事を選ぶのか」

どちらも、簡単には選べませんでした。

次回のよりみち仕事記録では、迷いの決断をお届けします。自分の幸せはなにかを考えたすえの決断。最後まで読んでくださりありがとうございました。

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